東京地方裁判所 昭和59年(ワ)3938号 判決 1986年6月26日
原告 有限会社 三立商会
右代表者代表取締役 坂本和繁
右訴訟代理人弁護士 谷正之
同 安田隆彦
被告 株式会社 麹村はらだ
右代表者代表取締役 原田ヒサ
右訴訟代理人弁護士 福田浩
主文
一 被告は、別紙物件目録記載の土地に対する原告の占有使用を妨害してはならない。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、被告から、昭和三七年三月二六日、左記店舗(以下「本件店舗」という。)を期間を昭和三七年三月三一日より三年間、賃料を一か月四万円とする約定で賃借した。
記
所在 東京都千代田区平河町一丁目二番地八
家屋番号 同町二番一五
種類 店舗(登記簿上、店舗兼居宅)
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根四階建地下一階
右建物の一階五五・〇〇平方メートルのうち西北側店舗約一九平方メートル
2 右賃貸借契約は、原、被告間で、昭和四〇年三月以降三年毎に更新され、昭和五三年以降は、一月一日を始期として二年毎に更新されている。
3 本件店舗の入っている右建物(以下「本件ビル」という。)は、北側と西側が道路となっている四つ角にあり、別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、本件ビルの敷地の一部分であって、別紙図面のとおり、本件店舗の北、北西、西側の歩道に面する幅員約四六センチメートルの土地である。この土地は、店舗内が見透せるように、道路側を一枚ガラスのウインドウにした本件店舗内で、写真機械、材料等を陳列販売するカメラ店として使用するに必要不可欠な部分で、原告は、シャッター柱、ワゴン置場等にも使用するなど昭和三七年三月三一日以降右賃貸借契約の目的物である本件店舗に付随するものとして、これを占有使用している。
4 被告は、原告に対し、昭和五九年一月に入ってから、本件土地上にワゴン等の物を置かないようにと申し入れ、同月二九日本件土地のほぼ中央付近にタバコ自動販売機一台を設置し、本件店舗への出入口部分と、右タバコ自動販売機を設置した部分を除く本件土地のほぼ全体に、ブロック石製の花壇六基を設置した。
5 右により原告の本件土地の占有使用は妨害されたが、将来も同様に妨害されるおそれがある。
よって、原告は、被告に対し、賃貸借契約に基づき、選択的に占有権に基づき、本件土地の占有使用の妨害の禁止を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(本件店舗の賃貸借契約)の事実は認める。
2 請求原因2(賃貸借契約の更新)の事実は認める。
3 請求原因3(本件土地の位置及び占有使用の態様)のうち、本件ビルが北側と西側が道路となっている四つ角にあり、本件土地が本件ビルの敷地の一部分であって、本件店舗の北、北西、西側の歩道に面する幅員約四六センチメートルの土地であることは認めるが、その余の事実は否認する。
4 請求原因4(タバコの自動販売機及び花壇の設置)の事実は認める。
なお、被告は、原告の店舗利用を妨げない範囲で、①本件ビルの収益の増大、②本件ビル全体の美化に役立つよう、タバコ自動販売機及び高さ五〇センチメートル以下の花壇を設置したが、花壇はレンガ造りでなかったため美化の目的に必ずしもそわない結果となったので、撤去したが、タバコ自動販売機は、一・五倍の売上増大をもたらした。
(右主張に対する原告の認否)
花壇が美化に役立たなかったこと、これを撤去したことは認めるが、その余の事実は否認する。
5 請求原因5の事実は否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因について
1 請求原因1(本件店舗の賃貸借契約)及び同2(賃貸借契約の更新)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因3(本件土地の位置及び占有使用の態様)について判断する。
(一) 本件ビルが北側と西側が道路となっている四つ角にあり、本件土地が本件ビルの敷地の一部分であって、本件店舗の北、北西、西側の歩道に面する幅員約四六センチメートルの土地であることは当事者間に争いがない。
(二) 《証拠省略》によれば、原告は、本件賃貸借契約締結後現在まで、本件店舗で、カメラ、写真材料等を陳列販売するとともに、写真の現像、焼付、写真材料の納品等の業務を行い、本件店舗をその業務用店舗として使用していること、原告の総売上げのうち店舗売りの占める割合は、約四五パーセントであることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 《証拠省略》を総合すると、本件土地は、被告代表者原田ヒサの個人所有の土地であること、原告は、賃貸借当初から本件土地の北西部分の一部分を本件店舗への出入口として使用していること、本件店舗の道路側からの外観は、当初は、出入口部分を除き、下三分の一が板張りで、上三分の二がガラス戸の構造であったが、昭和五一年八月ころ、原告は、被告の承諾を得て、本件店舗の全面的な内装、外装改造工事を行い、柱部分を除き足元近くまで全面一枚のガラス張りのウインドウとし、出入口も全面ガラスの一枚戸とし、道路から店内がほぼ完全に見透せるように改造し、カメラメーカーから広告テントの提供を受け、外壁上部に鉄枠を設けてこれを取り付けたこと、夜間には、ガラス面全体を覆い隠すことができるシャッターを取り付けたが、その柱は、本件土地上に建てられ、昼間は、中間の柱は本件土地上に横に置いて保管するようになり、そのシャッターの鍵は原告が所持していたこと、右広告テントを取り付けた結果本件土地には、余り雨が当たらないようになり、原告は、そのころから、出入口両側の本件土地上に客の注意を誘うように原告の営業中はアルバム、カメラバック、写真材料等を載せたワゴンを置くようになったこと、本件店舗のエアコンの排水口が本件土地上に出ているため、原告は、これが詰まらないよう保守管理をしていたこと、本件店舗の北、北西、西側の道路(ことに歩道)を通行する者は、前記ガラス面を通して本件店舗内の商品の陳列を見て、商品を買うか否か考える状況にあること、原告の従業員は、前記シャッターの上げ下げの際には、本件土地内に入ってこれを行い、ガラス面の清掃についても同様で、昭和五八年二月ころまでは、被告は、原告の右のような本件土地の占有使用について格別の異議を申し立てることはなかったことが認められる。
もっとも、被告代表者尋問の結果中には、昭和五七年夏ころまで、原告が本件土地上にワゴンを置いていたことには気がつかなかった旨の供述部分があるが、一方、同結果によれば、被告代表者は、昭和五一年以降も、本件ビルの三階で生活しており、体が弱かったとはいえ、外出することがなかったとは認め難いから、右供述部分を措信することができず、また《証拠省略》中右認定に反する部分も、右認定に用いた各証拠と比較して信用することができず、他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(四) 原告代表者尋問の結果によれば、本件ビル内の他の賃借人は、本件土地を占有使用していないことが認められる。
(五) 《証拠省略》によれば、ビルの一部分の賃貸借契約において、当該ビルの周囲の敷地の利用方法について、一般的には格別の定めがなされてはいないことが認められるが、一方、《証拠省略》を総合すると、本件ビル付近の一階の店舗には、業種によって店舗前の歩道と店舗との空間にワゴン等を置いて商品陳列をしているところがあり、ことにカメラ店では、そのような商品陳列をしている店舗が少なくないことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(六) ところで、ビルの一階店舗の賃借人が、一般的に、当然に当該ビルの敷地を使用する権利を有するとはいえないが、ビルの一階店舗の構造、外観、敷地との位置関係、店舗の業種、契約内容、現実の占有使用態様等によっては、用方に限界があるとはいえ、道路に面する敷地について、賃貸借の目的物である店舗に付随してこれを占有使用する権利を有する場合があり、その有無は、具体的事案によって判断されるべきものというべきである。
そこで、右(一)ないし(五)において認定した各事実を合わせ考えると、本件ビルの一階である本件店舗の構造、外観、本件土地の本件店舗との位置関係、本件店舗の業種がカメラ店であること、原告の本件土地の使用態様についての、ことに右(三)に認定した状況などからみて、原告は、本件店舗においてカメラ店を営業するうえで、本件土地を右(三)に認定した限度において使用することが必要であり、被告も数年間はこれを事実上許容していたものとみることができ、結局、原告は、本件土地を、賃貸借の目的物である本件店舗に付随して占有使用する権利を有しているものと解するのが相当である。
3 請求原因4(タバコの自動販売機及び花壇の設置)の事実は当事者間に争いがない。
また、被告が設置した花壇が美化に役立たず、これを撤去したことは当事者間に争いがなく、被告代表者尋問の結果によれば、被告がタバコの自動販売機を本件土地上に設置したことにより、それ以前よりも若干の売上の増大をもたらしたことを認めることができる。
4 そこで、請求原因4の被告の行為によって本件土地についての原告の占有使用が妨害されたか否か、将来も妨害されるおそれがあるか否かについて判断する。
《証拠省略》によれば、被告が、タバコ自動販売機を本件土地上に設置したのは、従前本件店舗の南西にあった被告経営のタバコ店をハンバーガーショップに変えるに当たり、タバコ店前に設置していたものを店前を空けるため移設したものであるが、そのため、原告は、ワゴンの置場を妨げられ、また、花壇の設置により、ガラス面の下方の部分が隠されてしまい、シャッターの中央柱の置場が妨げられ、また脚立が置けなくなったためガラス面の上部の清掃が困難になったりシャッターの下の方が閉まりにくくなったり、エアコンの排水に影響を及ぼす状況となり、その結果、原告の前記2において認定した本件土地の占有使用権が妨害されたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
右に認定した各事実を合わせ考えると、原告の本件土地の占有使用権は、被告によって将来も妨害されるおそれがあるものと推認することができる。
二 結論
以上の事実によれば、原告が被告に対し、選択的に求める本訴請求のうち、賃貸借契約に基づく本件土地の占有使用の妨害禁止を求める請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小倉顕)
<以下省略>